ダンマカ読んだ

それはフォロワーとご飯を食べていた時のこと。その時開催されていたリンウイの話をしていて、リンウイ以外の劇中劇もめちゃくちゃ良いこと、けれどそれらは何かしらのイベントで復刻する以外では現状見る術がないことを教えてもらった。「私も読みたいよ~復刻して~」なんて話していた。

そのわずか1週間後、8周年記念イベントの報酬としてストーリーチケットが交換できるようになり、過去の劇中劇を読めるようになった。いや願いが叶うまでが秒速。私は「もしかしてあのマクドに関係者おったんかな?私らの話聞いてたんかな?」とまで思った。そんなわけない。

フォロワー達がこぞってダンマカを勧めてくるので、「こりゃ読むしかねえな~w」と思って読んだ。結果、勿論アイドリッシュセブンのあのキャラがこの人物を演じている、という点には刺さったのだが、それ以前にストーリーとして苦しすぎてしばらくズン…となってしまった。劇中劇なのに。フィクションの中のフィクション、フィクションのマトリョシカのような状態なのに。特に自分に響いた点をベースに、自分自身の思考の整理のためにこの記事を書く。

 

ATTENTION

思想が強い

全ての文末に「※個人の感想です」が付く

怒らないでください

 

 

 

 

宗教は強い

「人間を集め統率する」といった点において、宗教はとても強い。

まず、信仰する対象は何だって良い。人間は基本的に何かを信じ縋り付きたい生き物なので、「これがあなたの拠り所です」と言われたら信仰対象が神仏だろうが動植物だろうが関係ない。

また、宗教は非常にローリスクハイリターンである。例えば会社を作るのには資金や労働力が必要だし倒産すれば借金を抱えるリスクがあるが、宗教は信仰対象と少々巧みな言葉さえあれば人を集められる。信者は何も努力しなくても組織に属することができるし、それは信者の安心に繋がる。

もっとアイドリッシュセブンのオタク的に身近なもので言うと、「アイドルを推す」といった行為もよく宗教に例えられている。好きなアイドルを応援するために、私たちはSNSでファン同士結束し、自分たちで作った暗黙の了解をきちんと守り、ライブに行き、グッズを買い、動画の再生回数を増やす。歌って踊るアイドルの輝く姿は、現実に疲れた私たちを癒してくれる。まさに救済である。一方、応援なんて口実だし、そんな私たちを見てアイドル側がどう思っているかなんて関係ない、なんて人もいるだろう。自己満足と言われても構わない。何かを好きでいる自分が、特定のコミュニティに属している自分のことが、好きだし安心するのだ。

完全に余談だが、ここまでの話を少しでも面白いと思った人は是非『完全教祖マニュアル』(架神恭介/辰巳一世 著)という本を読んで欲しい。単純にアークやナーヴ教会の解像度が上がるし、現代社会にも通ずる部分があって面白い。私は関係者でも何でもなく、ただこの本が好きなだけである。

何の話だっけ。まあそんな感じで、アークは天子を信仰対象とし、人を集め、組織外の人間は除外し、国を作った。実は天子は奇跡なんて起こさず、それどころか人間を殺すための技術の結晶・呪術兵器である。しかしそんなことを知らなくたって、信者には何の関係もない。あの国の人間は、恐らく天子の正体なんて暴こうともしない。「自分がそれを信じている」からである。もしくは、疑問に思い行動に移した者は異端とみなされ、排除されたり始末されたりしたのかもしれない。結果的に組織の濃度は高くなっていく。凄いシステムだなこれ。呪術兵器なんて存在がバレたら国の信用問題に関わるだろうに、それを包み隠して逆に信仰対象としたの、昔のナーヴ教会の人は頭が良かったんだなとシンプルに感心してしまった。

 

 

変化を嫌う人達

いつだって変化は怖い。それまで自分が当然だと思っていた前提が崩れてしまうのだから。ダンマカのストーリーにおいてポイントになるのが、こういった「変化を嫌う人達」だと考える。私はどちらかというと彼らと同じく変化が怖いタイプの人間なので、首を縦にぶんぶん振りながらこのストーリーを読み進めた。

 

フーガ

これは隙自語になるが、私は「好きになった時が旬」というフレーズをよく使う。例えば好きなアイドルに対して。勿論日々"好き"は更新されるのだが、好きになったキッカケの部分が今も一番好きであることが多いし、特別思い入れがある。(勿論、その変化やそれに至るまでの動機を踏まえた上で全てが好きだと思える対象もいる)

人間は変化する生き物である。髪は伸びるし身長体重も変動する。大人になったら顔つきが変わる。また人間を取り巻く環境や情勢も日々変化する。その度に価値観をアップデートし、考え方が変わったりより戦力的に動いたりする。

自分は変えられるけれど、他人はそう簡単に変えられない。相手との齟齬が起きた時に自分にできるのは、大きく分けて ①変化を受け入れるもしくは諦める、②自分の意志を伝え相手が変わるのを待つ、の2つである。だが稀に、③実力行使で無理やり相手を変えようとする といった奴が現れる。それがフーガだと私は思った。(ちなみにこの部分は本当にただの私の考えなので、違うだろと思っても怒らないでください…人には人の数だけ考えがあるので…)

Ep.26-1で明らかになるが、フーガは出会った時のリーベルが好きだから彼の下にいたいと思った。自分をピンチから救ってくれるリーベルのことをどこか神聖視していた。だが実際は自分のことを助けてくれない時もあるし、ちっちゃなアルムなんかの存在に救われる人間的な一面だってあった。自分が好きなリーベルとは違った、もしくは違っていった。だから元の、自分が好きなリーベルに戻すために、リーベルの意思は無視してアルムを引き剥がし、リベリオンを"元通り"にした。ただフーガのこの一連の動機と行動、気持ちはとても分かるのだ。だからこそ苦しいし、「もっといい方法なかったのかな」なんて考えてしまう。

ところでフーガはTRIGGERの『VALIANT』という曲を聴いた方が良い。「変わらない為に変わり続ける類なき己へ」の部分を聴いてもう一度よく考えて欲しい。何の話?

 

黒縄夜行

第12地区と黒縄夜行の話、まるで現代の日本を見ているようで私はとても辛かった。SNSで仕事家事子育てに疲れ「しんどいです」という人がいれば、外野から「努力していないからだ」「自分たちの時代はもっと辛かった」と返ってくるあの感じ。自分たちの苦しみもお前も味わえと思っているあの感じ。あと苦しい現状を「昔からこうしてきたから」って変えないのも凄く日本的な価値観だと思う。昔の人も苦しんできただろうから、自分だけが楽をするわけにはいかない。ヴィダのように、彼らは代々同郷の仲間の想いを背負って生きてきた。第12地区ってダメな方に転んだ場合の将来の日本なのかも。

Ep.16-1で、黒縄夜行初め第12地区の人々が明日を生きるのに精一杯な状態であることを知る。(私は仕事をしながら「この作業って絶対もっと簡単にできるけど、簡単にする方法を探してる暇がないんだよな…」と日々ヘトヘトになっている人間なので、規模は全然違うけれど何となく分かるような気がした) そんな中、生まれも立場も異なりそれなりに余裕がある人間に何か言われたって、立場が弱い側からしてみればそれはただの上から目線なのだ。目線を揃えない限り、それはクソバイスになる。「こうしたらもっと良くなるよ」って言われたって「じゃあお前らがやってくれよ!!!」となってしまう。辛すぎる。これどうすれば良いんだろうな。黒縄夜行がもう少し協力的、且つリベリオンが全部取り持ってくれてあとは黒縄夜行が加わるだけの状態になる、ぐらいしか私には解決策が見つけられない。

 

アーク

アークが地上の他の国と協定を結べば全員が幸せになってハッピーエンドである。しかし実際はそう簡単にはいかない。他所から何の思想にも染まっていない人間を入れるということは、ナーヴ教会の異常性がバレて反感を買うことに繋がりかねない。大前提、国という存在は強固なものである必要があり、内的要因で崩れるなんてことは避けたい。宗教の部分でも話したが、現状アークの結束力はナーヴ教会を中心にとても強い。恐らく、国民には信者か何も考えていない人しかいない。それを崩されるのなんてごめんだし、それなら外の人間を入れず現状を保つ方が平和だし色々とやりやすい。自分が得をしないのに生じるリスクは可能な限り避けたい。気持ちは分かる。

 

 

変化できなかった人達

後編を読んだ時、「シナリオライターはフラウェのオタクか何かなんか?」と思った。そんなわけがない。

変化を嫌った人達とはまた別で、地下の3人は「変化できなかった人達」じゃないかと思っている。

Ep.33-1で、最初に地下に潜った時には3人以外にも仲間がいたという話があった。その仲間の中には自身の家族や友人、もしかすると恋人や子供もいたのかもしれない。自分は何も変わらないのに、彼らはどんどん老いて死んでしまう。ついに3人だけになる。その別れに身が引き裂かれるほど辛い思いをしたかもしれない。いっそ死んでしまった方がマシかもしれない。でも死ねない。辛さはずっとこのままだ。悲しみは時間が解決してくれる、なんて言うけれど、まわりに環境の変化が何もないのだから悲しみはずっと続く。永遠の命を手に入れたことを悔やむ。死んでやり直したい。でも死ねない。"死"という行為は逃げの最終手段だと思うのだが、3人はそれができない。逃げたくても逃げられない。

Ep.39で『リーベルと共に永遠を生きる』を選んだ場合、Ep.40で不老不死はリーベルとアルムに引き継がれ、カバネ・クオン・コノエの3人はようやく死ぬことができる。カバネは死ぬ直前、「あれだけ時間があったのに」伝えたかったことを伝えられなかったことをようやく後悔する。アイドリッシュセブンというコンテンツは”永遠”がキーワードである。ずっとこのままでいたい。永遠にアイドルでいたい。でも永遠の時間を手に入れたって、このカバネのように「どうせ先は長いんだから。変わらないんだから」と先延ばしにして何もできないこともあるだろう。永遠でいたい、でもそれは不可能である。タイムリミットがあるからこそ人は何かを成し遂げようと足掻くし、その姿が儚くも美しいのだと言われた気がした。

 

 

常識とは

ダンマカのもう1つのテーマとして、「自分の常識と他人の常識」があると考えている。

ダンマカの登場人物は、大体閉鎖的なコミュニティの中にいる。各々が自分の常識で物事を語るから一生対話ができないし話がどんどんややこしくなる。でも例えば全員がアルムみたいに他の価値観を取り入れたら話が変わるかって言われるとそう単純でもなくて。見たことない地上のものを綺麗だと思うアルムに対して、Ep.16-1でヴィダは「お前が見てきたっつう地上は、観光地みたいなもんだ」と言う。相手を理解し寄り添おうとしたところで、自分が見えているものは氷山の一角に過ぎない。だから完全に理解するのは難しい。じゃあどうしろって言われても全然答えられないんだけど…。常識・価値観の擦り合わせ・相手の大義名分との兼ね合い、この辺は本当に難しい。個人的には、常識とか理性的な部分を全部抜きにした時に、最後に人を動かすことができるのが”感情”だと思う。感情だけは、計算も予測もなしに「なんかいける気がする」という気にさせるチートアイテムだと考えている。七瀬陸を見ると納得してもらえると思う。

 

その他感想

私は八乙女楽のことを中島健人だと思っているんだけど、リーベルが本当にMissionの中島健人にしか見えなくて何回か笑いそうになった。絶対ラスサビでTシャツ破く。

ライデンは絶対ゴールデンカムイにいる。と思ってたら別のフォロワーが煉獄さんに似てるって言ってて心の中で握手した。

リーベルとタッグを組んでからのクヴァルがただのツンデレでとても愛した。「勘違いするなよ」ってラノベツンデレヒロイン以外が使うことあるんだ。リーベルとクヴァルめっちゃいいコンビだよね。ブロマンス!って感じがする。

リーベルって八乙女楽を当て書きしたらああなった感じ?ほぼ八乙女楽でびっくりしたんだけど。リベリオンがアイナナ演技班の3人なのが良い。クウラは大和さんに狂気を少し足した感じだったな。フーガ役の巳波ちゃんが普段の姿からは想像できないぐらい演技が上手くて驚いた。同作品中に軽くて口が悪い後輩役も狂人の役も両方こなせるなんて。流石子役だっただけある…。あと贔屓目かもしれないけれどヴィダ役の天くんも流石だな〜って感じだった。あと当て書きでいうとユキのロイエもわりとそのままやんけと思った。あんなのちょっと元気なユキだよ。私はプラセルとコノエもわりとあのイメージだな。反対に普段とのギャップに驚いたのはナギのミゼリコルド。オタク帰ってきて(泣)ここなって言って(泣)って感じだった。

カバネの「あれだけ時間があったのに」とクオンの「あれだけ時間があったから」の対比が好きすぎる。不老不死になったことから時間があったのにいざ死ぬってなったら後悔し始めるところまでカバネは全部ネガティブに捉えてるのに対して、「助けてもらったから」っていう遠慮こそあるだろうけどクオンは自分が人を殺す存在から無害な存在になったことをわりとポジティブに捉えている。この2人本当に真逆で面白い。サイドストーリーないのかな。ないよ。

普段AppleWatchつけてるんだけど、カバネが出てくる度に「深呼吸しましょう」「深呼吸には緊張がほぐれる効果があります」って深呼吸して落ち着くことを何度も勧められて笑った。息してなかったのかな。いつも突然出てくるもんだからこっちもびっくりしちゃって。

 

 

おわりに

劇中劇、すごい。

ダンマカ、多くの人が勧めてくるだけの理由があるなーと思った。普段見ているキャラとは全く違う形で、でも知っているキャラの姿形で動いているのが不思議な感覚だった。しかも公式ページのキャスト欄のコメントとかもすごくリアルでニコニコしてしまった。

キャラの魅力はさることながら、ストーリーが自分たちの生活や世界情勢に置き換えて想像できるほど深くて読んでてすごく面白かったし考えさせられた。シナリオライターの方が何を勉強されてきた方なのかがすごく気になった。頭が良くないと書けないよな。反対に頭が良くないと良い感想は生まれずただ「すげー!かっけー!」ってなるだけなので、この年齢だけど勉強は怠らないようにしないとな〜と思った。読書とか観劇とかする度に「これ歴史背景知ってたらもっと面白いんだろうな」と思うけど模試の世界史が12点の人間なので何も分からず考察もできず…

次は何読もうかな。